世界地図がグッドデザイン大賞を取った理由を考察する
こんばんわ、12ikaです。
前回のグッドデザイン賞について解説した記事から約1ヶ月が経ってしまいました。文章をコンスタントに書くことが苦手なため、現在は修士論文に苦しんでいます。
2016年グッドデザイン賞特別賞
すでに今年のグッドデザイン賞の大賞を含む特別賞が発表され、すでに六本木Tokyo Midtownや渋谷ヒカリエでは展示が行われています。
さっそく本題に入りますが、2016年度グッドデザイン大賞を受賞したのはなんと、オーサグラフ世界地図でした。
オーサグラフ世界地図とは
オーサグラフ世界地図概要の引用を載せておきますね。
大きさや形の歪みをおさえた正確な地球の全体像を示す四角い世界地図です。この地図を眺めればグリーンランドはオーストラリアよりずっと小さいこと,成田空港からブラジルにオリンピックを見に行くときにヒューストンを経由する飛行ルートは理にかなっていること,南極はインド洋,大西洋,太平洋全てに面している唯一の大陸であることなどを理解することができます。
オーサグラフ地図はあたらしい図法をつかった世界地図ということです。いつも本屋などで見かけることのある地図はこんな地図ではないでしょうか。
これはメルカトル図法と言う図法を使用しており、面積や距離が正確ではありません。メルカトル図法の話はこちらのサイト様で詳しく解説されています。
ではなぜ、世界地図の図法がグッドデザイン大賞なのか?
まず、審査員のコメントはこちら。
世界地図は人の世界観を規定する力を持つが、私たちの世界観は未だに16世紀に作られた歪んだ地図がベースになっている。オーサグラフは従来の地図の欠点を補い、現代の世界情勢に即した世界観を反映した、新しい地図図法の発明である。教科書に掲載されたほか、日本科学未来館で600の主題を表現する地図として採用されるなどの実績もある。大きさと形に歪みがないこと、世界のどこもが中心になれること、時間の流れが表現できることなど、オーサグラフで表現された地図を見ると、世界の見方は多様にあるのだと気付かせてくれる。
以前の記事ですこし紹介しましたが、グッドデザイン賞は、そのデザインが、「くらしや、社会を豊かにしうるのか」という視点から評価を行っています。
また、グッドデザイン賞は次の5つの言葉を根本的なテーマとして挙げています。
人間(HUMANITY)もの・ことづくりを導く創発力
本質(HONESTY)現代社会に対する洞察力
創造(INNOVATION)未来を切り開く構想力
魅力(ESTHETICS)豊かな生活文化を想起させる想像力
倫理(ETHICS)社会・環境をかたちづくる思考力
グッドデザイン賞とは | GOOD DESIGN AWARD
この5つのテーマを元に、オーサグラフ地図に関して考察してみたいと思います。
一般人もわかるような地図のデザイン
-魅力(ESTHETICS)豊かな生活文化を想起させる想像力
受賞された慶應大学の鳴川肇先生とデザイナーの星鉄矢さんは、「いくら新しい世界地図を考案しても,これまでの地図とかけ離れていると,一般人は見向きもしないな」という奥様のアドバイスを元に、一般人にもわかるようなデザインを心がけたそうです。そのため、
・従来の地図と同じような大陸の配置
・陸地が途切れずにすっぽり長方形に収まる
ということを意識してデザインされています。たしかにその通り、私のような地図に関して何の知識もない 一般人がぱっと見たときに、ほとんど違和感を感じません。鳴川先生がおっしゃる通り、地図という巷にありふれたものをリデザインする場合、今までの文脈を拾わない全く見たことのない新しい形であると、ほとんどの人が素通りしてしまいます。
多くの人が思い浮かべる地図は16世紀に作られたビンテージ発明
-人間 (HUMANITY) もの・ことづくりを導く発想力
現在googleマップなどの最新の地図サービスですら、16世紀に発明されたメルカトル図法を使用しています。その時代に作られたため、メルカトル図法はヨーロッパを中心に捉えた世界という視点を持っています。
鳴川肇先生の、「16世紀に作られ地図は今の時代の価値観に合わない、今の時代を表すような地図を作るべきだ」という考え方こそ、まさにデザインの発想であると考えられます。
オーサグラフ地図の持つ社会的価値
-本質(HONESTRY) 現代社会に対する洞察力
この地図法の特徴として、全世界が長方形にぴったりと収まり、地理関係を損なわず全方向に繋げられる点が挙げられます。海と陸は矛盾なく広がり、行き止まりのない球面世界を平面で再現しています。
世界を平面上でより正確に描くことで多中心な世界観が視覚化されており、これは国際社会の現状を正確に描いていると言えるでしょう。ここが本質(現代社会に対する洞察力)の評価ポイントだと考えられます。
-創造(INNOVATION) 未来を切り開く構想力
-倫理(ETHICS) 社会・環境をかたちづくる思考力
企画・開発の意義として先生は以下のように述べられています。
これまで日本は極東と呼ばれてきました。これはヨーロッパを中心に据えた既存の世界地図から見て東の端という視点です。それ以外にも南下,北上,中近東,第3世界という言葉もヨーロッパからの視点です。応募対象となるオーサグラフ地図によってこれらの地理表現に替わる言葉,つまり世界を見据える斬新な視点が生まれ,よりバランスが取れた国際情勢へ舵が切れるような提案が生まれるきっかけになる効果が期待できます。
オーサグラフ地図によって世界を見据える斬新な視点が生まれ、バランスが取れた社会情勢へ家事が切れるような提案が生まれるきっかけになる効果が期待できるというポイントこそ、創造(未来を切り開く構想力)、倫理(社会・環境をかたちづくる思考力)を抑えているかと考えられます。
新しい視点で世界を見据えてみよう
グッドデザイン賞の5つのテーマからオーサグラフ地図を解説してみました。
そしてこの地図、正直とても地味です。例えば他のグッドデザイン大賞候補であったMaBeeeやヤンマーのトラクターYT3シリーズと見比べると一見全く目立ちません。
鳴川先生は20年間もの長い間、投影法の研究をされていたそうです。価値はあるが日に当たりにくい研究やプロダクトに価値を見出し、社会的に注目される機会を作ることこそ、賞を与えることの価値であると思います。
そして、慶應の助教の松川さんがtwitterでこんなツイートをしていました。
鳴川さんが投影法に関する孤独な探求を初めたのは学生のころ、つまりかれこれ20年、孤独にそしてしつこく、なにより情熱をもって、少しずつ探求を積み上げてきたことになります。それが、20年たってようやく社会的に認知され評価される。
— 松川昌平Shohei MATSUKAWA (@sho000) 2016年10月29日
そして、みなさんが今取り組んでいる研究テーマが今後20年しつこく続けられるテーマ足り得ているか?今一度自問自答してみましょう。
— 松川昌平Shohei MATSUKAWA (@sho000) 2016年10月29日
みなさん、どうでしょうか。今取り組んでいる研究テーマや問題は20年後続けられるようなものでしょうか。
G展に行こう!
オーサグラフ世界地図をはじめとした、グッドデザインの展示をまとめて観れるのは11月3日まで。
2016年度 | お知らせ | Good Design Award
時間がある方には、いろんな製品やサービスが見れて楽しいので行ってみることをおすすめします。「時間がない!でも展示会に行きたい方!という方はベスト100のコーナーだけささっと見て帰るのもオススメです。